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名古屋地方裁判所 昭和35年(ワ)173号 判決 1960年7月14日

原告 錦観光自動車株式会社

右代表者代表取締役 中山錦二

右訴訟代理人弁護士 荒木辰生

同 岡田介一

被告 株式会社大垣共立銀行

右代表者代表取締役 土屋義雄

右訴訟代理人弁護士 島田新平

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は被告は錦観光自動車株式会社破産管財人弁護士亀井正男に対し別紙目録記載の帳簿書類を引渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並に仮執行の宣言を求め、請求の原因として(一)原告は昭和三十一年三月二十二日被告から名古屋地方裁判所に破産宣告の申立を受け、被告の申立による破産宣告前の保全処分決定に基き昭和三十一年八月八日弁護士大内正夫が破産宣告の決定あるまで原告の管理及び業務執行につき一切の権限を与えられ就任した。(二)原告は昭和三十二年八月三十一日午後一時名古屋地方裁判所において破産の宣告を受け弁護士亀井正男がその破産管財人に就任した。破産管財人亀井正男は原告に対する右破産事件につき保全処分において弁護士大内正男が稼行してきた観光バス営業は引続きこれが稼行の状態にあり然も職員従業員等も多数居ることなればこれを継続することとなし昭和三十二年九月二日裁判所の許可を得て昭和三十三年六月十二日迄右営業を継続していたものである。(三)而して右営業権その他総べての破産財産は昭和三十三年四月一日訴外三重交通株式会社に対しこれを代金金七千万円をもつて売渡す旨の契約がなされ同年六月十三日右営業権その他の引渡がなされた。而して破産管財人亀井正男は同年同月十四日被告の名古屋市内支店に原告の営業に関する別紙目録記載の帳簿書類の保管を委託した。(四)原告は右破産事件につき復権の申立をなす必要があるから破産管財人亀井正男に右帳簿書類の閲覧謄写の請求をなし承諾せられたるも被告は何等の権原もなくこれを拒否し、破産管財人よりの前記帳簿書類の返還請求に応じない。(五)よつて原告は破産管財人の被告に対する前記帳簿書類の返還請求権を代位して行使するため本訴請求に及ぶ。と述べた。

被告代理人は本案前の答弁として原告の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、その理由として原告の本訴旨は「被告に対し原告の破産管財人亀井正男の管理にかかり被告の保管する原告の破産財団に関する諸帳簿書類の引渡を同破産管財人に代位して訴求する。」というに帰するところ(一)右破産管財人亀井正男の外に原告に右訴訟の当事者適格はなく、(二)破産会社の代表取締役等は破産管財人、監査委員又は債権者集会に対しては破産に関し必要なる説明をなすべき義務こそあれ、破産管財人に対し破産財団に関する諸帳簿書類の閲覧謄写を権利として請求しうべき破産法上の根拠がない。(三)勿論破産管財人が必要と認めた場合は任意これを許諾し又は中止しうることは破産法の禁ずるところではないがこれは飽くまでも破産管財人の任意的処置を出でず破産者はこれを自ら訴求し得ない。と述べ本案につき原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張の請求の原因たる事実中(一)(二)の各点(三)の中日時、代金額、本件帳簿書類の種類及び数量を除き認めるもその余の点はこれを争う。と述べた。

理由

案ずるに原告の本訴旨が、被告に対し破産者原告の破産管財人亀井正男の管理にかかり被告の保管する原告の破産財団に属する諸帳簿書類の引渡を同破産管財人に代位して訴求するにあることは記録上明らかなところである。而して破産法第三百六十九条によれば裁判所は復権の申立ありたる旨を公告し且利害関係人の閲覧に供するためその申立に関する書類を備え置くことを要する旨規定しており復権を申立たる破産者が利害関係人としてその申立に関する書類の閲覧をなしうることを明らかにしておるけれども、破産法第百六十二条は破産財団に関する帳簿書類の引渡を求むるが如き破産財団に関する訴については破産管財人をもつて原告又は被告となし破産管財人に訴訟遂行権ある旨を規定し、破産者に訴訟遂行権のないことを明白にしているので、原告の本訴請求は訴訟遂行権なき不適法なるものというの外なく、被告の本案前の抗弁は相当にして爾余の争点につき審究するまでもなく原告の本訴請求は却下を免れないので民事訴訟法第八十九条により主文のように判決する。

(裁判官 小沢三朗)

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